獣の蜜月

 
「ブラスレイターで801」でのリレー企画にて、bluepage251のhanage3さんのSS「ザーギン様の包帯についての考察」の続きとして書いたものです。
単体でも読めるようにはなっておりますが、上記のSSを読んでからの方がよりお楽しみいただけるかと思います。




 鬱蒼と茂った木々に覆われた、獣しか通らないような森の中。二人分の人の声と衣擦れの音がきこえる。こんなところで絡み合うのは誰だろうか。
「いい格好だ、ジョセフ。きみの大事なところがとてもよく見えるよ」
「……っは、くっ、離せ……っ、ザーギン…っ」
 ジョセフはザーギンにしっかりと組み伏せられていた。ズボンと下着を膝まで下ろした状態で、膝を胸につけるようにして両脚を上げさせられているため、性器や肛門があますことなくザーギンの目前に晒されている。両の手首はザーギンの背から伸びる鋼の触手のようなもので、頭の上で一纏めに拘束され、苔むした地面にしっかりと縫いとめられていた。両足首も同様の触手でしっかりと縛められている。
「そういえば君は、後ろの穴を弄られる方が好きだったね。前には一切手を触れていないのに、後ろだけでいってしまう事もよくあったっけ」
 ザーギンがジョセフの後孔に指を出し入れしながら言った。ジョセフの欲望の根元はザーギンの足に巻かれていた包帯によって縛められており、その状態で先ほどからザーギンに竿や孔を弄られている。何年にも渡って誰の侵入も受けなかった肛門はザーギンの手ですっかり解きほぐされて、漸く綻びかけてきたところだ。今はザーギンの人差し指と中指を咥え込んでおり、指を動かす度に縛められた雄がひくひくと痙攣する。
「嫌だ……っ、見るな……っ」
 恥辱にたまりかねたジョセフが、顔を背けながら懇願した。それでもザーギンは意に介さず、久しぶりに会った旧友と昔話をする口調で語り続ける。
「恥ずかしがることはないだろう? お互い、全てを晒け出した仲じゃないか」
 語り掛ける合間に亀頭を口に含んで強く吸い上げてやると、ジョセフは白い喉を晒して頭をのけぞらせて喘いだ。口の端からは涎が細い糸となって垂れる。
「そんなのは…っ、昔の、っく、事だっ」
「あの頃のきみは、とても可愛かったのにね。今のように自分を偽ることなく、素直に、そして貪欲に僕を欲しがり、また僕が求めたときも全てを与えてくれて……」
 尚も否定するジョセフに、ザーギンは睦言のように語りかける。その間もジョセフの後孔に指を出し入れする手を休めない。両手の親指を奥深くまで差し入れ、中でかき回すようにぐりぐりと動かしてやると、ジョセフの口から絞り出すような喘ぎ声が漏れた。
「……言うなっ、止めろ、今の俺はあの時とは違……ああっ」
「何が違うというのかな? 君のここはこんなにも涎を垂らして欲しがっているのに」
 そう言って尿道に溜まった先走りをじゅるりと音を立てて吸ってやると、ジョセフが切なげな吐息と共に身を震わせた。そのまま竿の先端から根元にかけてちゅっちゅっと音をたてて口づけていく。
「全部、僕のものだよ、ジョセフ。この立派なものも、後ろの孔も、きみの身体の髪一筋から血の一滴に至るまで全て」
 そう言いながら高く上げられた足の間からジョセフの顔を見ると、彼は顔を背けたまま眉根をぎゅっと寄せ、唇を噛み締めていた。まるで泣いているような顔だと、ザーギンは思った。
 後ろの孔も随分とほぐれてきた。もうそろそろ挿入してもいい頃合いかもしれない。そう考えたザーギンはジョセフの孔から指を引き抜いた。漸く解放されたジョセフはほっとしたように細い息を吐く。
「ジョセフ、気を抜くのはまだ早いよ」
 ザーギンは触手を操り、ジョセフの両腕をぐいと持ち上げて上体を起こさせると、そのままひっくり返して、四つん這いの姿勢を取らせた。肘と膝を地面につけているため、尻を大きく上げて突き出している体勢になり、牡を受け入れる体勢を取る獣のように見える。
 そのままジョセフの真後ろに膝をつくと、ザーギンは勃ち上がった己の逸物を取り出した。軽く扱いて立たせた後、ジョセフの肛門に怒張した逸物の先端をそっとなすりつけてやると、肩越しに振り返る彼の目に怯えの色が浮かぶ。だが、そこには苦痛への恐怖だけではなく、これから来る快楽への期待もにじみ出ていた。
「っく、嫌だっ、止めろっ」
 ザーギンの男根から逃れようとするかのように身を捩る。だが四肢をしっかりと拘束されたジョセフは身体をくねらせることしかできず、当然ながらそんなことでは逃れられるはずもない。その様を、ザーギンは憐憫と侮蔑と慈愛の目を以て見下ろしながら言った。
「ジョセフ、きみはやはり嘘つきだ。そんなにも物欲しそうな目で快楽を待ち望んでいるというのに、それでもなお、自分は欲情していないと?」
「……っく、違うっ、俺は…」
 目を閉じて顔を背け、否定の言葉を口にする。だがザーギンはそんなジョセフを容赦なく追い立てる。
「違わない。違うというのなら、どうして君のここはこんなになっているのかな?」
 言いながらジョセフの股間に手を伸ばすと、勃ち上がるジョセフの雄を握り込む。息づくように脈打ち熱を持っていたそれは、限界までの大きさに張りつめていた。手に余る大きさのそれを、ザーギンは優しく愛撫し、しごき上げる。
「離せ、止めろっ、ザーギンっ」
 解放を許されることなく与えられる刺激は、許容量を超えた快楽となってジョセフの心身を苛んでいることだろう。そこから逃れようとするかのようにジョセフは身を捩った。だが尻を突き出した姿勢で拘束された状態では、誘っているようにしか見えない。
「おやおや。そんなふうに腰を揺らして、はしたない子だ」
「っ、違う…っ」
 抗うようにザーギンを睨みつけるが、紅潮した頬と潤んだ目では、どんなに否定したところで説得力を持たない。当然ながらザーギンは意に介することなく、ジョセフの雄を強くこすり上げ責め立てながら、後ろの孔の周りにいきり立った逸物の先端をぐりぐりとこすりつけるように押し付けた。
「嘘はいけないよ、ジョセフ。どんなに禁欲を装っても、その身体に染み込んだ性質までは隠せはしないのだから。こんな状況でも男を欲しがる、そのいやらしい身体の性質はね」
 ザーギンは彼の性器から手を離すと、なおも逃れようとするかのように身を捩るジョセフの腰を両手でしっかりと逃れられないように掴み、己の逸物を再びあてがい直した。
「嫌だ……止めてくれ……」
 震える声でジョセフが懇願した。貫かれる痛みに対する恐怖からではなく、快楽に溺れて獣に堕ちることを恐れての哀願だった。だがザーギンは、そんなジョセフに愛しげな眼差しをくれてやりながら、優しい声で告げた。
「こんなにも欲しがっているのだから、お望み通り、奥の方までたっぷりあげないとね…」
 そして後ろの孔にあてがった雄を、ゆっくりと押し進めた。
「あああ……っ」
 拒むような狭さの孔を、かき分けるように進んでいくと、ジョセフが眉根をぎゅっと寄せて声を上げた。ザーギンは再び手を伸ばすと、縛められたジョセフの雄をそっと握り込む。
「痛いかい? ほら、力を抜いて」
 それは先走りにまみれ、硬くなったまま、解放されることを許されずに張りつめていた。優しく包み込むように前後にこすってやると、ジョセフの身体から僅かに力が抜けた。それを機に再びゆっくりと腰を押し進める。
「ああ…、っ、嫌…だっ…」
 ジョセフがどこか怯えたような、それでいて艶を含んだ声を上げた。ザーギンはゆっくりと、だが確実に腰を進めていく。決して焦らず、手荒にはせず、相手の身体を気遣うように優しく。ジョセフが恐れているのは苦痛に身を裂かれることよりも、快楽に溺れることだと分かっているからだ。
「ほら、全部入った」
 やがて全てをジョセフの中に納めたザーギンが彼の方を見ると、彼は顔を伏せて肩で息をしていた。
「ジョセフ、顔を見せておくれ」
「……嫌だ」
 ジョセフは身を縮こませながら頭を振った。その様子を見たザーギンは挿入したままジョセフの身体を再びひっくり返し、足を大きく開かせた状態で仰向けにさせた。
「あああっ!」
 体勢を変えた時、体の奥深くまで貫くザーギンの男根の先端で内側の壁をこすられ、ジョセフが悲鳴を上げた。
「見てごらん。こんなにも奥深くまで僕のものを咥え込んで離さない。やはり君はあの時のままだ」
 言いながら膝のところで絡まっているズボンから片方の足だけ抜き去ってやる。膝頭に手をかけて更に大きく割り開いてやると、そそり立つジョセフの男根と、大きく口を開いてザーギンの雄を咥え込む肉穴がザーギンの目前に余す事無く晒されることとなった。
「……っ」
 己の恥ずかしい姿を晒されて、ジョセフは泣いていた。ぎゅっと閉じられた瞼の淵に涙を浮かべて、声もなく肩を震わせて。浅ましく欲情する自分に絶望して、寄る辺無い幼子のように泣いていた。
「何故認めようとしない。己の欲望を。自分自身の本当の姿を」
 ジョセフの身体に覆いかぶさるようにのしかかると、欲望が更に深くまで押し込まれ、ジョセフが苦しげな呻き声をあげた。覆いかぶさったまま、ザーギンはジョセフの目尻に顔を近づけると、溜まった涙を舐めとってやった。
「どんなに取り繕ったところで、きみの本性は誤摩化せないよ。淫らで、美しい、獣の本性は」
 そして四つん這いでジョセフを組み伏せた獣の体勢のまま、ザーギンは深々と突き立てた逸物を抜けるぎりぎりまで引き抜いた。そして間髪入れずに一気に貫き、抽挿を開始する。
「ああっ、うああっ、あああああっ!」
 身を引き裂かれるような快楽に、ジョセフは激しく啼いた。形振り構わず、正しく獣のように。塞き止められた快楽は間断なく続く責め苦となって彼の心身を責めさいなむ。
 薄暗い森の中には、激しく腰をぶつけるバシリバシリという音と、ぐちゅぐちゅと掻き回す水音だけが響き渡る。そして獣のような二人分の息づかいと、喘ぎ声だけが。
「解放してやればいい。偽りの禁欲など捨てて、己の望むがままに」
 耳元で囁きながら、ザーギンはジョセフの股間に手を伸ばし、欲望を縛める包帯を解き去ってやった。途端に彼の雄はびくびくと痙攣しながら勢いよく白濁を解き放つ。
「くっ……」
 出した瞬間にジョセフの中がザーギンの欲望をぎゅっと締め付ける。その刺激で限界まで達していたザーギンの雄も絶頂に上り詰める。
 ザーギンはジョセフの身をがっちりとかき抱くと、ねじ込むように腰を押し付け、ジョセフの最奥に己が欲望を一滴残らず注ぎ込んだ。
「あ……ああ……」
 どくどくと脈打ちながら胎内に精を吐き出される感触に、ジョセフが目に涙と絶望の色を浮かべる。ザーギンは一滴も零すまいと、ジョセフの身を押さえ込むように抱きしめた。
 全てを吐き出し終わってからも、ザーギンはジョセフの身体を離さずにいた。暫しの後、ザーギンが身を起こして満足げにジョセフを見下ろした。ジョセフは魂の抜けたような半開きの目で、薄く口を開けて浅い呼吸を繰り返している。
「お互いいっぱい出たね……でも、まだまだ終わりはしないよ」
 ザーギンが両手でジョセフの頬を挟み、半開きの唇についばむように口付ける。ジョセフの放ったものは彼の腹や胸にまで飛び散っていて、黒いシャツにねばねばとわだかまっていた。ザーギンが挿れたままなすり付けるように腰を押し付けてやると、結合部から白濁した液がつうと伝って零れ落ちる。
「僕たちの蜜月はまだ始まったばかりなんだから。それこそ、きみが僕の子を孕んでしまうまで、未来永劫、抱いてあげよう」

Fin.

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