地獄の殉教者

 
 どこまでも広がる荒野の、視界一面を埋め尽くすデモニアックの大群の真っただ中にて。
 ザーギンの目の前には、人間形態に戻ったマレクが倒れ伏していた。前回と同じく、今回も身の程知らずにも自分に挑みかかり、そして当然の結果として敗れた、愚かしい少年だ。
 自らも変身を解き、人の姿に戻ったザーギンはマレクの傍らにかがみ込むと、彼の顎を掴んでこちらを向かせた。身動き一つ取れないほど弱っているにもかかわらず、マレクは威嚇するように睨みつけてくる。
 (まるで手負いの獣だな)
 とはいえ、この闘志は賞賛に値する。このまま壊してしまうのは惜しい。そう思ったザーギンは、彼に選択の余地を与えてやることを思いついた。
「今この場で許しを乞い、私と共に来ると誓えば、これ以上手荒な真似はしないが、どうする?」
 ザーギンの恩情に対し、マレクは嘲笑と血混じりの唾と共に、拒否と罵りの言葉を吐くことを以て応えた。
「あんたの家来になるぐらいなら、そのフニャフニャの粗チン突っ込まれた方がよっぽどマシだね」
 この期に及んで悪態をつくマレクを、ザーギンはむしろ哀れみの感情を込めて見つめた。
「つくづく強情なことだ。流石にジョセフが見立てただけはあると言うべきか。それとも以前、どのような目に遭わされたか、もう忘れてしまったのかな。
 ならば望み通り、犯してやろう。そして後悔するがいい。自分の愚かさを」
 感情を抑えた声で告げながら、マレクの身体を仰向けにひっくり返すと、ジーンズを下着と一緒に脱がせた。そして両膝が胸につくまで脚を押し広げる。無防備かつ屈辱的な体制にもかかわらず、マレクは相変わらずザーギンを睨み据えたままだ。
「この期に及んでまだ意地を張れる気力が残っているとは大したものだ。だがそれもいつまで持つかな?」
 既に動く力も残っていないのか、マレクは抵抗する素振りも見せずにされるがままになっている。だがその眼に浮かんでいるのが、恐怖でも怯えでもなく、かと言って諦めでもない覚悟のように見えるのは、どういうことだろうか?
 とはいえ、相手が強情であればあるほど、それを打ち砕いてやったときの征服感は大きい。そう考えながらザーギンは、見せつけるように自分の指を舐めて濡らした。硬く閉ざされた菊門にずぶりと中指を突き立ててやると、マレクは流石に苦痛に顔を歪めた。それでも悲鳴を漏らすことはない。ザーギンにはそれが精一杯の抵抗であるかのように見えた。
 (まあいい、いずれ泣き叫んで許しを乞うだろう。お楽しみは先に取っておくとしよう)
 以前ザーギンによってむりやり押し広げられ、蹂躙されたマレクのそこは、今度はさほど抵抗もなくザーギンの指を受け入れた。だが中の狭さは相変わらずで、以前の傷も跡形もなく治っているようだ。この分では挿入した時にかなりの痛みを与えることができるだろう。
 マレクの後孔をほぐすのもそこそこに、ザーギンは片手でズボンの前をくつろげて己の逸物を取り出す。軽くしごいて勃たせた後、そのままマレクの後孔に軽くつつくように押し当てると、マレクの体が一瞬ぴくりと強張った。
 流石に虚勢を張りとおすのも限界になったかと思い、マレクの顔を見ると、口許をぎゅっと引き結んだまま、あらぬ方向の空をじっと見ていた。
「ジョセフに抱かれているとでも想像しているのかい?」
「……そんなんじゃない」
 相変わらず不貞腐れたような目で、明後日の方向を向いているが、その声にかすかな震えが含まれているのをザーギンは聞き逃さなかった。
「最後にもう一度聞こう。許しを乞い、私の僕となる気は?」
「……」
 マレクは相変わらず横を向いたまま、沈黙を以て応えた。
「なら好きにするがいい。泣こうが喚こうが、ここには聞き咎める者も気にする者も誰もいないのだから」
 そしてそのままマレクの後孔に、ずぶりと音を立てて欲望を突き入れた。
「あううううう…っ」
 流石に耐えきれなかったのか、マレクの口から抑えきれない悲鳴が洩れる。わざとろくに慣らしもしないで無理やり入れたため、挿れている自分の方も痛いほどだ。恐らく挿れられているマレクの方はそれを遥かに上回る、それこそ身を引き裂かれるような苦痛を感じているだろう。
「あうう、あっ、あっ、あああっ!」
 そのまま無理やり腰を押し進めると、マレクは目を限界まで大きく見開き、短い悲鳴を上げ続けた。ぶつりと中が切れる手ごたえがあり、やがてつながった部分からぽたぽたと血が垂れてきた。
 血である程度すべりが良くなったのを助けに、そのまま最奥まで押し進める。やがてザーギンの肉棒がすべてマレクの内に収まった後、マレクの方を見ると、額に脂汗を浮かべてぐったりと身体を投げ出し、息も絶え絶えな様子で目を閉じて浅い呼吸を繰り返している。目もとには涙が滲んでいた。
「苦しいかい? その強情を手放してしまえば、こんな苦しみを味わうこともなかったものを」
 そう言うと、マレクが涙にぬれた目できっとザーギンを睨んだ。この期に及んでそれだけの気力が残っているとはむしろ感服に値すると、ザーギンは思った。
「まあいい、時間はたっぷりある。お楽しみはまだまだこれからだ。君の虚勢がいつまで持つか、愉しませてもらうよ」
 そしてそのまま抽挿を開始する。最奥まで押し込んだ肉棒を引き抜き、ぶつけるように再び深々と貫く。最初は滑りの悪かったマレクの中は、彼の血とザーギンの先走りで次第に滑りがよくなって行く。それによりザーギンの穿つ速度は次第に早くなっていく。
「あ、う、あ、あ、あ、あっ」
 突き入れられる度に、引き抜かれる度に、マレクが短い悲鳴を上げる。だがその声もザーギンにとっては、嗜虐心をそそるだけのものにしかならない。
「君がこんなに辛い目に遭っているというのに、あの男は、ジョセフはまだ寝ているつもりなんだろうかね」
 ジョセフの名前を出してやると、激痛に息も絶え絶えになっていたマレクがはっと目を開けた。
「君だけじゃない、世界が終わろうとしているというのに、彼にとってはそれすらどうでもいいんだろうね。それとも、世界が終わるまで寝ているつもりなのかな」
「ジョセフは……そんなんじゃない」
 今にも泣き出しそうな目でザーギンを睨みながら、マレクは言葉を絞り出した。
「あんたみたいな、何もかも諦めて、ヤケッパチになってるだけの弱虫とは違う!」
 その瞬間、ザーギンの表情がふっと消えた。
「なにが違うというのかな。僕と、あの寝ているだけの彼とは」
「あぐうっ!」
 今度は別の角度から抉るように肉棒を突き入れられ、マレクが悲鳴をあげた。
「どうやら君は、まだ自分の立場が分かっていないようだ。いいだろう。その減らず口が大人しくなり、泣き叫んで許しを乞うまで、犯し続けてやろう」
 そして抽挿を再開した。今度は腹を突き破らんばかりの激しい勢いで、容赦なく責め立てる。
「うううーっ、あぐぅぅぅぅ…っ」
 激しく貫かれ、揺さぶられるマレクは、涙を流し、食いしばった歯の奥から呻き声を洩らしながら、それでもザーギンを睨みつけてくる。
 (まるで、殉教する聖者だな……)
 犯しながら、ふとザーギンはそう思った。そしてその眼差しに妙な既視感を覚える。以前にも似たような目をみたことがあると。
 (まあいい。そのぐらいの方が犯しがいがある)
 思考を中断し、目の前の獲物を貪ることに集中する。限界が近くなっていた。絶頂に向けて、腰の動きを更に早め、そして…
「……っく、出すぞ……っ」
「あああっ!」
 マレクの中に、たっぷりと精を解き放った。

 その後、何十分、何時間と過ぎただろうか。
 幾度となくマレクを蹂躙し、犯し続けながらも、ザーギンはどこか拭いきれない違和感を抱え続けていた。
 もう何度、この少年の中に精を解き放っただろうか。もう何時間、この少年を貪り喰らっているのだろうか。普通であれば、彼の心はとっくの昔に壊れてしまっていてもおかしくはないはずだ。事実、前回彼を蹂躙した時はそうだった。むしろもっと簡単だった。
 なのに今、マレクの目から意志の光が消える気配は全くない。激しく貫かれ、揺さぶられながらも、泣きはらした目でザーギンを睨み続けていた。何故この少年は、何時間にもわたる生き地獄の中にありながら、いつまでもその目に闘志と怒りの炎を絶やさずにいられるのか。
「何で僕が平気なのか、分からないって顔してるね。やっぱりあんたは弱虫だ」
 激しく貫かれ続けて息も絶え絶えになりながらも、ザーギンの当惑を見透かすようにマレクが呟いた。
「何だと…!?」
「平気なわけないじゃない。怖いし、すごく痛いよ。死んだ方がマシってぐらい苦しいよ」
 そして一旦言葉を切ると、マレクは凄絶な笑みを浮かべながら、喰いちぎらんばかりの万力の力で、自分の奥深くまで貫くザーギンの肉棒を締め上げる。どこに残っていたのかと思うような力での、捻り潰すかのような締め付けは、快楽を通り越して痛みの方が強く、思わずザーギンは顔をしかめた。
「でも僕はその痛みから逃げるわけにはいかないんだ。だって、ここで死んじゃったら罪を償うことができなくなるからね」
 そしてザーギンは唐突に思い出した。この眼はジョセフと同じだと。何度打ち倒され、地を這わされても、立ち上がり向かってくるあの愚かしい自分の同類と。
「だから僕は、生き地獄をのたうち回ることを選んだ。守りたい人達がいるからね。そのためなら、どんな苦しみであろうと、耐えてみせるさ」
「黙れ」
「あんたに僕は壊せない。僕の犯した罪は、この程度の痛みと苦しみじゃ、到底償いきれるものじゃないんだ。罪も痛みも、正面から見据えることも受け入れることもできない、あんたごときの与える痛みじゃ、僕を壊すことなんかできない……!」
「黙れと言っている」
 ザーギンは片手を伸ばすと、マレクの喉を掴み、ゆっくりと締め上げた。反射的に、マレクの肉穴がザーギンの肉棒を絞り上げるようにぎゅっと締めつける。息が出来ない苦しさに、マレクの顔が再び歪むが、ザーギンを睨みつける目の光が消されることは無い。そしてどこか殉教者のような笑みを浮かべながら、なおも言葉を紡いだ。
「あん…たは、ぼく…が…怖いん…だろう…。だから、こうでも…しないと…」
「それ以上減らず口を叩くと、愚かな世迷い言を発する、その生意気な声帯ごと喉を握りつぶす」
 マレクの喉を締める手に、ザーギンが更に力を込める。マレクの口が苦痛の形に歪んだが、自分の首を絞める腕を掴んで渾身の力で引きはがし、ほんの僅かな気道を確保した。
「バカなのは……あんたの方だよっ」
 苦痛に顔を歪め、額に脂汗を流しながらも、マレクは口許にどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべて吐き捨てた。
「何…?」
 喉を絞めるザーギンの手が僅かに緩む。その好機を逃さず、マレクはすかさず追い討ちをかける。
「僕じゃあんたを倒すことはできないし、それどころか傷一つ負わせることだってできやしない。それぐらい分かってるさ。僕は弱いからね。でも、足止めすることならできる……!」
 ザーギンはマレクの喉から手を離すと、血と精液に塗れた己の逸物を引き抜いた。痛々しく腫れ上がったマレクの尻の穴から、血の混じった精液がトロトロと溢れ出た。
「あんたを倒す為の切り札が揃うまでの、それまでの時間稼ぎなら、僕にだって出来るんだ……」
「君は……最初からそのつもりで」
「アマンダやヘルマン、サーシャさん達、そしてジョセフが受けた痛みに比べたら、僕のこの痛みなんて、どうってことはないよ…。あんたが僕を倒したら、前と同じようにするだろうって、思ったんだ。そしたら思った通り、あんたは見事に挑発に乗ってくれた……」
 マレクは勝ち誇ったように満足げな笑みを浮かべると、震える手で空の彼方を指差した。つられてザーギンが立ち上がり、マレクの指差した方向を見ると、彼方の空に黒い何かが見えた。
 並の人間であれば、ただの黒い点にしか見えなかっただろう。だが彼らの文字通り人並みはずれた視力には、それが空を翔る黒いバイク、ガルムであることと、それに乗っているのが、この一連の戦いの最後の切り札、ジョセフであることがはっきりと視認できた。
「見なよ、どうやら最後の切り札が揃ったみたいだ。この勝負、僕の…僕達の…勝ちだ……」

Fin.

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