反撃の殉教者

 
 身体のあちこちが痛い。手足が重くて自分の身体じゃないみたいだ。
 酷いボロボロの状態で、僕は地面の上に伸びていた。いつの間にか変身も解けちゃってる。
 僕をこんな状態にした超本人、ザーギンが変身を解いて僕の方に近づいてくる気配がする。起き上がらなくちゃいけないのに、身体が言うことを聞いてくれない。まるで自分の身体じゃないみたいだ。
 参ったなぁ。結局ろくな時間稼ぎにもならなかったよ。前に戦った時みたいに瞬殺されなかっただけマシだけど、やっぱり一撃も与えられなかった。
 イシスは完成したんだろうか。ジョセフは目が覚めただろうか。まだなら、僕はもう少しこいつをここで足止めさせなきゃならない。
 勝てないどころか傷一つ負わせられないことは、最初から分かっていたんだ。だったら最初から考えていた通り、僕にしかできそうにない方法で、あいつを足止めするしかない。
 そこまで考えたとき、奴に乱暴に顎を掴まれた。瞼をむりやりこじ開けて、力一杯目の前の男を睨みつけてやる。
 ザーギンが側にかがみ込んで、僕の顔を覗き込んでいた。整った顔立ちに穏やかな眼差しの、嫌味なぐらいハンサムな顔だ。こんなのが自分と同じ男だと思うと、正直やってられない気分になってくる。
「今この場で許しを乞い、私と共に来ると誓えば、これ以上手荒な真似はしないが、どうする?」
 どうやら今すぐ僕を殺そうとする気はないみたいだ。だけど今、ここで下手な返事を返してしまうと、最悪の場合、足止めできるどころかあっさり殺されて犬死にする羽目になる。「死んだ方がマシだ」なんて言っちゃったら、本当に殺されかねない。だけどこれは千載一遇のチャンスだ。この男を確実に足止めするには、上手い事誘導しないと。
 だから僕は、ありったけの敵意と侮蔑を集めて口元に装い、僕の狙う状況を作り出すために最もふさわしいと思える啖呵を切ってやった。
「あんたの家来になるぐらいなら、そのフニャフニャの粗チン突っ込まれた方がよっぽどマシだね」
 ああ、とうとう言っちゃった。こうなったらもう、色々な意味で引き返せない。これで挑発に乗ってくれれば、奴は僕をレイプしようとするはずだ。
 ヤらせて足止め喰らわすなんて、男として本格的に終わってるような気がする。けど、力づくで止められなかったんだから、こうするしかないよね。それで少しでも時間稼ぎになるんなら、僕のちっぽけな男のプライドなんて、いくらでも捨ててやるさ。
「つくづく強情なことだ。流石にジョセフが見立てただけはあると言うべきか。それとも以前、どのような目に遭わされたか、もう忘れてしまったのかな。
 ならば望み通り、犯してやろう。そして後悔するがいい。自分の愚かさを」
 こっちの思惑通り、あいつは僕の挑発にまんまと載ってきた。作戦はひとまず成功だ。ただし、僕の男のプライドと貞操と引き換えに、だけど。
 だけどもう、僕は一度こいつに犯られちゃってるんだ。貞操だの男のプライドなんて、そんなもん、とっくの昔に失くしちゃってたんだ。必要とあらば、自分から股開いて、アンアン喘ぎながら腰を振ってやってもいい。そんなことやったら、いくらなんでも不自然極まりないからやらないけど。というか、自分で考えておいて気持ち悪くなってきた。流石にそれは止めておこう。
 僕が心の中で男のプライドとさよならしている間に、あいつは僕のジーンズをパンツごと脱がせてきた。僕の下半身が外気とあいつの視線の元に晒される。恥ずかしさと恐怖を押さえつけるため、精一杯の勇気と意地をかき集めて、あいつの目を真正面から睨みつけてやった。
「この期に及んでまだ意地を張れる気力が残っているとは大したものだ。だがそれもいつまで持つかな?」
 少なくとも、イシスが完成するまでは持たせなきゃならない。できれば、それを携えた誰かがザーギンを倒しにくるまで。こいつに屍姦の趣味でもあるのなら、僕が途中で死んじゃっても多少は時間稼ぎになるだろうけど、流石にそこまで期待するのは虫が良すぎるってもんだろう。何より僕には生きてやらなきゃならない事があるから、覚悟はしているとはいえ、死ぬのはできれば避けたい。
 奴が自分の指を舐めてから、僕の尻の穴にその指を突っ込んできた。奴に自分の身体の中を直接触られる嫌悪感と、尻の穴に無理やり指をねじ込まれて広げられる痛みに思わず顔をしかめる。
 そのまま尻の穴をクチュクチュといじくり回される。以前、奴にはじめて指突っ込まれた時よりはまだマシな気はするけど、痛いものはやっぱり痛い。こればっかりは慣れようったって慣れられるもんじゃないらしい。慣れたくないけど。
 ああ、今からこれじゃ先が思いやられるな。だって今からここにあいつのアレが入れられるんだ。信じられないことに。
 そうこうしている間に、奴は自分の指を引き抜くと、ベルトを外してズボンのファスナーを下ろし、自分の逸物を取り出していた。晒されたそれを見て、僕の顔が引きつったのが自分でも分かった。
 はっきり言って、デカい。デカ過ぎる。とても自分と同じモノとは思えない。
 さっきはフニャフニャの粗チンなんて言ったけど、あいつのアレはむちゃくちゃデカいんだ。長さにしても太さにしても、僕の倍はある。そしてそれを突っ込まれた時の痛かったことも嫌というほどよく覚えてる。忘れようったって忘れられるもんか。
 引き出した自分のものを、奴が片手で軽くしごき始めた。ますます大きくなっていく奴の逸物を見て、恐怖で僕のモノがすくみあがっていく。
 ああ、今になって本格的に怖くなってきた。覚悟は十分できてたつもりだったけど、実際に目にしちゃうと、もう怖くて怖くてたまらない。もはや男としてどうとか言ってられる次元ではなく、純粋に物理的な痛みが怖い。
 見ているのに耐えられなくなって、気づかれないようにそっと視線をそらし、遠くの空を見た。
 正直、ゲイでもないのに人生のうちで二度も男にケツ掘られるなんて、思いもよらなかった。まさか自分がそんな目に遭うなんて夢にも思うもんか。まだ女の子ともHどころかキスもしたことないのに。
「ジョセフに抱かれているとでも想像しているのかい?」
 あいつがなんだか的外れな事を聞いてきた。なんで僕がジョセフにヤられなくちゃいけないんだ。
「……そんなんじゃない」
 そう答えたら声が震えてた。それに気づいたとき、ああ、やっぱり怖いんだってことを実感した。
「最後にもう一度聞こう。許しを乞い、私の僕となる気は?」
 僕の尻の穴にブツの先っぽ押し当てながら、あいつが最後通牒を突きつけてきた。正直言って、この最後のチャンスにすがりつきたい気持ちでいっぱいだった。形振り構わず泣いて謝って、止めてくれって懇願したかった。
 でも、そうするわけにはいかなかった。ここで折れたら、何もかもが無駄になる。サーシャさんたちが今大急ぎで作ってるイシスも、アマンダやジョセフが身体を張って戦ってきたことも、僕をかばって死んでいったヘルマンの命も、何もかも無駄になるかもしれないんだ。
「……」
 だから僕は目をそらしたまま、貝みたいにじっと口をつぐんでいた。うっかり口を開けば、途端に懇願の言葉が出てきそうだったからね。抑えるのに必死だったよ。
「なら好きにするがいい。泣こうが喚こうが、ここには聞き咎める者も気にする者も誰もいないのだから」
 そう言いながら、あいつがでっかい逸物を僕の中に押し込んできた。ああ、助けて。助けて。助け…
「あううううう…っ」
 灼けた鉄棒で身体の内側から引き裂かれるような痛みに、目の前が真っ白になりかける。できるだけ身体の力を抜いて、痛みを和らげようとしたけど、やっぱり痛かった。初めてじゃないだけ、まだマシだと思っていたけど、甘かった。
 そう思った矢先、まだ痛みも収まらないうちに、あいつが腰を押し進めてきた。
「あうう、あっ、あっ、あああっ!」
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 痛い、痛いよ! 痛いよ! 助けて! ジョセフ! 助けて! 痛いいいいいいい!
 痛みとショックで気を失えていたら、どんなに良かっただろう。映画なんかじゃ結構簡単に気絶したりしてるけど、実際には、人間そんなに簡単に気絶できないらしい。残念ながら。第一、仮に運良く気絶できたとしても、あいつ絶対許してくれないよ。またすぐ叩き起こされるに決まってる。
 そして奴の逸物が全部僕の中に入った時、僕は既に息も絶え絶えになっていた。お腹の中が圧迫されてるみたいだ。息が苦しい。痛くて痛くて死にそうだ。
「苦しいかい? その強情を手放してしまえば、こんな苦しみを味わうこともなかったものを」
 いっそ優しげな声で、奴が語りかけてくる。その声に新たな怒りを引き起こされて、僕はザーギンの顔を睨みつけた。
「まあいい、時間はたっぷりある。お楽しみはまだまだこれからだ。君の虚勢がいつまで持つか、愉しませてもらうよ」
 そしてザーギンは僕の中に突っ込んだ逸物を引き抜くと、深々と一気に突き入れてきた。痛い痛い痛い! 内臓を容赦なく引きちぎられて、お腹の中を引っかき回されてるみたいだ。
「あ、う、あ、あ、あ、あっ」
 あまりの痛さに、僕はなりふり構わぬ悲鳴を上げ続けた。ザーギンはそんな僕の痛がる様をじっと見ている。自分が絶対的な強者となって、弱者を貪り喰らうことへの快感を覚えている目だ。
「君がこんなに辛い目に遭っているというのに、あの男は、ジョセフはまだ寝ているつもりなんだろうかね」
 憐れむような目で僕を見下ろしながら、奴が呟いた。何だって?
「君だけじゃない、世界が終わろうとしているというのに、彼にとってはそれすらどうでもいいんだろうね。それとも、世界が終わるまで寝ているつもりなのかな」
 その一言で、僕の中に静かな怒りがふつふつとわき上がってきた。こんな奴に、ジョセフを貶められるのは許せない。
「ジョセフは……そんなんじゃない」
 身を裂かれる痛みと、わき上がる怒りで目の前が霞みかけながらも、僕は叫んだ。
「あんたみたいな、何もかも諦めて、ヤケッパチになってるだけの弱虫とは違う!」
 その途端、ザーギンのあのニヤニヤ笑いがふっと消えた。何だか不穏な気配がする。これは不味いかも。
「なにが違うというのかな。僕と、あの寝ているだけの彼とは」
「あぐうっ!」
 そして深々と抉るように激しく貫かれた。新しい痛みに思わず絶叫してしまう。
「どうやら君は、まだ自分の立場が分かっていないようだ。いいだろう。その減らず口が大人しくなり、泣き叫んで許しを乞うまで、犯し続けてやろう」
 死刑の宣告のような声で、奴が宣言した。だがそれは、裏を返せば僕が死なない限り、こいつをここに足止めできるって事だ。あとは、この身体の持つ限り、それこそ『股ぐらにぶちこんだザーメンが耳から出てくるまで』犯されてやればいい。
 あいつが再び、腰をぶっつけ始めてきた。さっきよりずっと激しい勢いで。
「うううーっ、あぐぅぅぅぅ…っ」
 抑えきれないうめき声を上げながら、僕は融合体の身体になった事を今一度ありがたいと思った。少なくとも人間の身体の時より長くは持つだろうし、上手く行けばイシスの完成に間に合うかもしれない。
 あいつの腰の動きが速くなってきた。早く終われ、早く終われ、早くイっちまえ。一度出したからって終わるはずが無いのは、嫌というほどよく分かってる。でも、今の僕にはそう念じて堪えるだけで、精一杯だった。
「……っく、出すぞ……っ」
「あああっ!」
 奴の逸物が僕の中でどくりと脈打った。お腹の中に熱いザーメンが注ぎ込まれるのを感じながら、僕は考えていた。僕の身体はあとどのぐらい、この生き地獄に耐えられるんだろうか。僕が生きている間に、イシスは間に合うんだろうかと。

 それから僕は、随分と長い間、ザーギンに犯されっぱなしだった。
 さっきからもう、どのぐらい中出しされてるんだろうか。僕が女の子だったら妊娠しててもおかしくないところだ。
 ザーギンは相変わらず僕の体を貪るように貫いている。だけどなんだかその顔に、戸惑いのようなものが浮かんでいるように見える。
 黙って犯され続けるのも飽きてきた。そろそろ反撃してやる頃合いかもしれない。
「何で僕が平気なのか、分からないって顔してるね。やっぱりあんたは弱虫だ」
 苦しい息の合間に、そう呟いてやったら、奴がぴたりと動きを止めてこちらを見た。最初の反撃は成功だ。
「何だと…!?」
 奴も流石に疲れてきたのか奴も息が上がっている。僕を見る眼差しからも余裕の色が消えている。
「平気なわけないじゃない。怖いし、すごく痛いよ。死んだ方がマシってぐらい苦しいよ」
 そう言いながら僕は、追い討ちをかけるように自分の中に入ってるザーギンのブツを思いっきり締め付けてやった。本当は『続・殺戮のジャンゴ』でブロンディがやったみたいにそのまま握り潰してやりたかったけど、流石にそれは無理だ。けど、痛めつける効果は覿面だったようで、あいつは痛そうに顔をしかめている。いい気味だ。
「でも僕はその痛みから逃げるわけにはいかないんだ。だって、ここで死んじゃったら罪を償うことができなくなるからね」
 正直、今までずっと耐えるばっかりだったところから反撃に移るのは、胸のすくような気持ちだった。復讐は良くないことだって知ってるけど、なんだかんだ言っても気持ちのいいものだというのもまた、認めるしかないみたいだ。ただし、やり方を間違えたり、やりすぎたりすると、こっちもその報いを受けることになるけど。
「だから僕は、生き地獄をのたうち回ることを選んだ。守りたい人達がいるからね。そのためなら、どんな苦しみであろうと、耐えてみせるさ」
「黙れ」
 ザーギン硬い声で警告してくる。表情が浮かんでないのが却って怖い。だけど僕の口は止まらない。
「あんたに僕は壊せない。僕の犯した罪は、この程度の痛みと苦しみじゃ、到底償いきれるものじゃないんだ。罪も痛みも、正面から見据えることも受け入れることもできない、あんたごときの与える痛みじゃ、僕を壊すことなんかできない……!」
「黙れと言っている」
 奴が片手を伸ばして、僕の首を絞めてきた。ああ、ちょっとやりすぎて怒らせちゃったかな。だけど今、ここで引き下がったら、その時こそおしまいだ。死ぬしかない。苦しい息の下、僕は言葉を吐き出し続ける。
「あん…たは、ぼく…が…怖いん…だろう…。だから、こうでも…しないと…」
「それ以上減らず口を叩くと、愚かな世迷い言を発する、その生意気な声帯ごと喉を握りつぶす」
 首を絞める手に力が加わった。目の前が霞みかける。流石にこれはちょっと不味いかも。
 ありったけの力を総動員して、自分の首を絞める奴の手を引きはがそうとする。当然ながら奴の力は強く、引きはがすのは到底無理だけど、ほんのちょっとだけ緩める事には成功した。そのチャンスを逃さず、すかさず止めの一言をお見舞いする。
「バカなのは……あんたの方だよっ」
「何…?」
 僕の喉を締めるザーギンの手が緩んだ。そこに更なる追い打ちをかけるように、一息に追撃の言葉を浴びせかける。
「僕じゃあんたを倒すことはできないし、それどころか傷一つ負わせることだってできやしない。それぐらい分かってるさ。僕は弱いからね。でも、足止めすることならできる……!」
 奴が黙ったまま僕の首から手を離し、尻の穴から逸物を引き抜いた。広がったお尻の穴から、散々中出しされた奴の精液が、だらだらと流れ出て行くのを感じる。このまま戻らなかったらどうしようかと少し心配になった。
「あんたを倒す為の切り札が揃うまでの、それまでの時間稼ぎなら、僕にだって出来るんだ……」
「君は……最初からそのつもりで」
 奴もようやく気付いたみたいだ。でももう遅いよ。それにどうやら、僕の時間稼ぎは功を奏したみたいだ。
「アマンダやヘルマン、サーシャさん達、そしてジョセフが受けた痛みに比べたら、僕のこの痛みなんて、どうってことはないよ…。あんたが僕を倒したら、前と同じようにするだろうって、思ったんだ。そしたら思った通り、あんたは見事に挑発に乗ってくれた……」
 震える手を何とか持ち上げて、僕は空の彼方を指差した。奴が立ち上がって僕の指差した方向を見る。僕の指差した先の空には、こちらに向かって近づいてくる何かがあった。普通の人ならとても見えるような距離じゃなかっただろうけど、僕にはそれが空飛ぶバイクであることと、それに乗っているのが僕が今まで待ちわびていた人、ジョセフだって事がはっきりと見えた。
「見なよ、どうやら最後の切り札が揃ったみたいだ。この勝負、僕の…僕達の…勝ちだ……」
 身体全体が重い。特に下半身は酷く痺れていて、自分の身体じゃないみたいだ。尻の穴は痛みを通り越して感覚がなくなるほど痺れてじんじんしてるのに、まだ中で奴のペニスが暴れまわってるような気がする。
 でも僕の心はとても晴れ晴れとしていた。ザーギンの足止めという、自分の為すべき事をやり遂げたことと、最後まで負けずに耐えきれたという達成感でいっぱいだった。

Fin.
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