欲望の虜囚

 
 ザーギンの居城とも言える隠れ家には、鍵のかかったとある一室がある。
 そこは元々召使い部屋だったのだが、扉の鍵は外からかけられる頑丈なものに変えられており、窓には鉄格子がはめてある。
 隠れ家の主であるザーギンは、いつものように鍵のかかった扉を開いた。飾り気のないその部屋の中は薄暗いが、ザーギンが室内に足を踏み入れると、部屋の中央にあるベッドの上にいた人物がびくりと身を震わせるのが見て取れた。その人物に親しげに声をかける。
「やあ、マレク。気分はどうだい?」
 そこにいたのはマレクだった。頑丈な首輪とベッドの支柱から伸びる長い鎖でつながれ、服らしいものは一切身に付けていない少年が、怯えたような濁った目でザーギンを見上げてくる。何度も何度も陵辱されつくし、ひとかけらの魂すらも残さないまで喰い尽くされた目で。最初のうちこそ泣き叫んで抵抗していたが、今こうしてザーギンを見上げる目に残されているのは、ほんのわずかな恐怖の最後の一片と、それを上回る情欲の炎だった。だがその恐怖の一片が取り去られ、快楽の虜に堕ちるのも時間の問題にすぎない。調教は最終段階に入っていた。
 最初はただの気まぐれだった。ジョセフの目の前で弄び、壊した生け贄にすぎなかったのに、なんとなく打ち捨てて立ち去るのが惜しくなり、そのまま屋敷に連れ帰って慰み者にしていたのだ。
 最初にマレクを見た時、ザーギンは彼の事を「つまらない出来だ」と思った。だがそれが、ちっぽけな良心やら迷いといったつまらないものに心を捕われている為であるのなら、そこから解放してやった時には思いもよらない成長を見せるのではないか。そう考えてのことだった。
 ザーギンは連れ帰ったマレクに、快楽の味を教え込むことに腐心していた。最初のときのようにただ壊すだけの陵辱ではなく、身も心も堕として、自らの僕に作り替えるために。どことなくジョセフに似た眼差しを持っている少年だからこそ、彼なりのやり方で躾け、好きなように作り替えることに楽しみを見いだしていたのかもしれない。
 それに、ジョセフの気に入っていたらしい少年を手駒にしておいて後々彼に差し向けるというのは、なかなかに面白い趣向ではないか。
 マレクの下半身は貞操帯で縛められていた。褌にも似た形状の黒い革と金属の覆いで性器を覆い隠し、自分で触れる事も誰かに触らせることもできなくするための拘束具だ。支配されていることを理解させるための躾と、快楽を押さえ込むことによって解放への欲望を高める効果を狙っての処置だった。
 ザーギンは部屋に入って扉を閉めると、ベッドの側に近づいて告げた。
「さて…何をすればいいか分かっているね、マレク」
 マレクは一瞬、諦めたような観念したような表情を浮かべると、のろのろとベッドから降り、ザーギンの前に跪く。ズボンのファスナーを降ろし、彼の逸物を取り出した。そして顔色を伺うような上目遣いでザーギンの顔を見上げながら、おずおずと肉棒に舌を這わせ始める。ザーギンはその様子を目を細めて眺め、促すように、安心させるように優しく髪を撫でてやる。それをきっかけに、マレクは本格的な奉仕を開始した。根元から先端にかけて丁寧に舐め上げ、先端を口に含んで舌先でチロチロと舐める。
 その間もマレクの左手は無意識のうちに自分の股間をまさぐっていた。だがそこは無慈悲な拘束具によってしっかりと覆われ、肝心なところには触れることもかなわない。貞操帯の下で押さえつけられた性器が苦しいのか、太腿をすり合わせ、もじもじと動かしている。
「マレク、口がお留守になっているようだが。それとも、外してほしくないのかな?」
 マレクの身体がぴくりと震え、許しを請うような目でザーギンを見上げる。以前、奉仕の途中で誤って歯を立ててしまった時、罰として貞操帯を付けたまま挿入されたことがある。その日に限って普段以上にいいところばかりを狙ったように突かれて、ただ一方的に溜まっていくだけの快楽に気が狂いそうになり、最後は射精せずに達してしまった。その時のことを思い出したのか、マレクは熱に浮かされたような必死の形相で、細心の注意を払いながら奉仕を続ける。
「くっ……」
 やがてザーギンの雄は限界を迎えた。しっかりとマレクの頭をつかむと、彼の喉の奥めがけて一気に白濁を解き放つ。口一杯にザーギンの欲望を頬張ったマレクは一瞬目を見開くも、しっかりと口の中の肉棒を咥え込み、出されたものを受け止めると、時間をかけながらも一滴残さず飲み下した。もちろん、これもザーギンの躾の賜物である。
「よく出来たね、マレク」
 そう労い、ザーギンはポケットから小さな銀の鍵を取り出すと、マレクを立ち上がらせ貞操帯の前側についている錠前を解錠し、彼の性器を解放してやる。前当ての裏側につけられた金属の筒に入れられていた若茎が外気に晒された時、それはしとどに濡れそぼり勃ち上がっていた。
 ザーギンはマレクをベッドの上に上がらせると、尻を突き出した格好で四つん這いにさせる。そして柔らかい尻の肉を両手でぎゅっと掴んで押し開くと、奥の窄まりにぴちゃりと音を立てて舌を這わせた。
「あ…ん、はぁ…」
 マレクがシーツに顔を埋め、切なげな声を漏らす。指を差し入れてやると、そこは大した抵抗もなく迎え入れた。何度も使い込まれた肉穴は、最初の頃よりも慣らすのに時間を要さなくなっていた。ことによると、そのまま突き入れても問題なく使えるかもしれない。だがザーギンは敢えて時間をかけて、ゆっくりと解きほぐす。
 やがて十分に慣らした後、ザーギンはマレクの身体をひっくり返して仰向けにさせ、その両足を押し開いた。マレクは抵抗するどころか、むしろ自分から足を開いて受け入れる。そしてザーギンは準備万端に整った己の欲望をマレクの後孔にゆっくりと挿入していった。
「ああ、はぁぁ…」
 その小柄な身体に不釣り合いなほど大きな質量を迎え入れて、マレクが苦しそうな息を吐く。触れられてもいないはずの雄は、限界まで張りつめて今にも達しそうだ。やがてザーギンの欲望が全てマレクの裡に収まった後、ザーギンはしばらくそのままの状態でマレクの中の感触を愉しむ。
 マレクの肉穴は、使い込むうちに慣らされときほぐされ、極上の性器と化していた。傷ついてもナノマシンの力で再生されるため、適度な締まりを失うこともない。今ではすっかりザーギンの肉棒に馴染み、絡み付くような締め付けで適度な快楽を提供する。
 存分に中の感触を楽しんだ後、ザーギンはおもむろに挿抽を開始した。欲望を抜き出す度に、挿し入れる度に、マレクの中は肉棒を離すまいとするように絡み付き、銜え込む。
「あ…う…あああ…はぁ…」
 マレクは快楽のあまり焦点の合わなくなった目を見開き、口の端からは涎が垂れるに任せている。突き入れられて揺さぶられる度に、首輪から伸びた鎖がチャリ、チャリと音を立てた。
 やがてザーギンが限界に達しそうになった時、マレクが突然、ザーギンの腰に両足を絡めるとぎゅっと締め付けた。
「……くっ」
 急激に与えられた強い快楽にザーギンの雄はびくりと震え、マレクの中に白濁した欲望を解き放つ。その瞬間にマレクも身を震わせて、一度も触れられていない若茎から白濁を放った。

 大人しくなった欲望を引き抜いた後、ザーギンはマレクの首輪を外してやった。もう身体の縛めは要らない。縛り付けておかずとも、この少年はもう自分の元から離れないことを知っていたからだ。
 そして彼を浴室に連れて行き、身体を洗い清めてやった後服を返してやると、自分の居室で寛いで時間をつぶしていた。しばらくすると用あって使いに行かせたベアトリスが帰ってきた。
「ベアトリス、ご苦労だった。首尾は?」
「こちらに。墓から掘り出した時点で既に損傷が激しく、かなり腐敗が進んでおりますが、問題ありません」
 そう言って窓の外を指し示す。庭の片隅に先ほどの外出から彼女が持ち帰った品が並んでいた。人間の入るような大きさと形をした三つの袋だ。どうやら死体を入れる為の袋らしい。側に控えていたマレクが怪訝そうな顔で袋を見た後、ザーギンを見上げた。
「よろしい。マレク、お前もこちらにおいで」
 そして三人揃って庭に出ると、問題の袋から漂う強い腐敗臭が鼻についた。よく見ると袋の外側にここでは見かけない色の土の汚れがわずかに付着している。
 ベアトリスが袋のファスナーを開けると、更に胸が悪くなるような腐敗臭とともに、マレクにも見覚えのある顔が現れた。
「こいつら…僕が殺した…!」
 死体袋から出てきたのは三人のいじめっ子達の骸だった。ひどく損傷した上腐敗した顔は、ほとんど原型を保っていなかったが、マレクにとっては見間違えるはずもない。
「そうだ。君が狩った記念すべき最初の獲物だ。だが、君にとってはあれだけでは殺しても殺し足りないだろう? だから、新しく生まれ変わった君への記念にプレゼントしようと思ってね」
 ザーギンはベアトリスに死体の数だけのカプセルを渡した。ベアトリスは三人の死体の傍らにしゃがみ込むと、その口をこじ開けて、ザーギンから受け取ったものを投与する。
 間もなく死体が起き上がり、デモニアックと化した。獣じみた動きで、戸惑うように辺りを見回していたがマレクの姿を認めると、何かを思い出したかのように身を震わせ、よろよろと数歩あとずさった。
 ザーギンはマレクの方を振り返ると、告げた。
「好きなように狩るがいい。一思いに打ち砕くもよし、追い立ててじわじわと嬲り殺しにするもよし、君の思うようにやりなさい」
 それを聞いたマレクの顔に笑みが浮かんだ。それも年相応の明るい笑みではなく、殺戮の欲に濁り、爛れたような笑みを。
 次の瞬間、マレクは目にも留まらぬ速さで跳躍した。そしてデモニアックの一体の前に降り立つや否や、右手に顕現させた光の槍でその胸を貫く。そしてすぐさま引き抜くと、今度は崩れそうになった相手の身体を滅多打ちにする。
 やがて滅多打ちにした一体が原型を留めなくなり、マレクが顔を上げたころ、残りの二体は転げるように逃げていく所だった。だがマレクは慌てずに右手の槍を光の鞭に変えると、素早く振りかぶって投げ縄のように投げ、もう一体の首に巻き付ける。そしてそのまま振り回すようにして、逃げているもう一体めがけて放り投げ、激突させる。
 もつれあうようにして転がる二体のデモニアックに、躁じみた笑みを浮かべたマレクは悠然と近づいていく。この状況でも敢えて変身はしない。自分の余裕を見せつけるように、あえて人間の姿のまま叩きのめすつもりのようだ。
 ザーギンは傍らにベアトリスを従えたまま、そんなマレクの様子を満足そうな面持ちで見守っていた。
「受け入れてしまえば良い。身を委ねてしまえば良い。君の内に潜む殺戮への欲望に。君の持つ、性への欲望に」
 少年を見て、ザーギンは思う。戦闘技術もまだまだ稚拙で、位階としてもそう高いわけではない。だが一片の迷いもなく、ただただ欲望のみに従って心のままに殺戮を楽しむ少年の姿は、心底美しいものだと。そして夢想する。ジョセフの目の前にこの少年の姿を突きつけてやった時のことを。
「あの子を差し向けてやった時、君はどんな顔をするのだろうね…ジョセフ」

Fin.

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